ジョーンズによって1980年代半ばにJones多項式が定義されて以降、結び目の量子不変量の研究は盛んに行われてきた。ウィッテンによって経路積分を用いた理解が得られているものの、こうした量子不変量の性質にはまだ解明されていないものが多く残されている。その中でも、カシャエフによって1997年に提唱された「体積予想」、すなわち、「色付きJones多項式のある特殊値の漸近極限が結び目の補空間の体積に一致する」とする予想は、量子不変量の幾何学的・物理的な理解に向けて大変重要であると考えられる。 われわれはこの体積予想問題の理解に向けた研究に取り組んだ。まず、非双曲結び目であるトーラス結び目およびトーラス絡み目の色付きJones多項式の性質について詳細な解析を行った。その結果、これら不変量が保型関数のEichler積分と一致することを発見した。ここであらわれた保型関数とは、共形場理論におけるミニマル模型やアフィンリー代数の指標といった数理物理学において非常になじみの深いものであり、量子不変量の物理的性質の解明という今後の研究において有意義なものであると期待される。 またさらに保型関数のEichler積分の性質を用いて量子不変量の厳密な漸近展開を得ることに成功し、漸近極限の値とトーラス結び目のChern-Simons不変量との関係を明らかにした。
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