本研究では、物理系を外部入力の情報を表現する媒体と見なす観点から理論的に解析している。我々が物理学において取り扱う系は、多くの場合外部から何らかの力を受けており、これを系がその特性に応じて外力の情報を表現していると捉えることができる。すると、系がどの程度効率的に情報を表現しているのかという興味深いテーマが生じる。本年度は具体的な系として、生物の細胞集団や脳の神経回路のモデルとして重要な非線形振動子の多体結合系と、キャビテイ中の輻射場やレーザートラップに捕捉された原子集団などのモデルである熱浴に接したポテンシャル中の量子系による外力の情報表現を特に詳しく扱った。情報表現効率の定量化には統計的推定理論におけるFisher情報量を用い、これまであまり考えられていない系の非定常状態に重点を置いた。その結果、どちらの系においても、非定常状態において情報表現効率が向上するという結果が得られた。この結果は、心理物理実験の結果の解釈や、量子系を情報処理デバイスとして応用する上で役立つ可能性がある。どちらの結果も日本物理学会等で部分的に報告した。また、前者の非線形振動子の多体系に関する論文は、「Population coding by globally coupled phase oscillators(大域結合位相振動子系による集団情報表現)」というタイトルで論文誌に投稿したが、レフェリーとの意見の不一致によりリジェクトされため、現在再投稿に向けて内容を検討中である。後者の量子系に関する結果についても、論文の原稿を作成しつつある。その他、本研究テーマに関係する研究として、独立成分分析という統計的手法を用いた結合振動子系の時空カオス状態の解析と、非定常電流入力によるニューロンの発火タイミングの精度向上現象の解析を行った。これらに関する結果も、順次学会および論文誌にて発表すべく、準備中である。
|