本研究では物理系を外部入力の情報を表現する媒体と捉え、特にその動的な側面に注目して理論的に解析することを目的としている。この目的のもとに、今年度は主として3つの研究テーマに関して理論および数値解析を行った。 まず、昨年度に引き続き、既に研究を進めつつある位相振動子系による情報表現過程を詳しく解析した。この系は脳の神経回路網が外部刺激に応じた入力を受け、その情報を神経細胞のスパイクの発火タイミングによって表現している状況のごく簡単なモデルであり、従来のニューロンの確率発火モデルをより現実的に拡張したものである。系の情報表現効率の定量化には、数理統計学においてパラメータの推定精度に理論的限界を与える量として重要なFisher情報量を用い、特に系の非定常状態に重点を置いた。その結果、特に系の示す動的過程において、系の情報表現効率が大幅に向上することを見いだした。この結果を論文として公表した。 また、やはり昨年度より研究を進めている、変動電流入力によるニューロンのスパイク生成タイミングの向上現象に関する理論解析を発展させた。既にニューロンが変動電信信号入力を受けた状況においては、この現象のメカニズムを理論的に解明していたが、この結果をランダムインパルス入力および区分定数変動信号入力を受ける場合に一般化し、また数学的な定式化の面でも洗練させた。その結果をふたつの論文および学会研究会等で公表した。 さらに、非平衡散逸系の示す複雑な挙動から客観的にそのダイナミクスを抽出するという手法のひとつとして、結合振動子系の示す時空カオス状態に対して、信号処理やニューラルネットの分野で開発された独立成分分析法を適用した。その結果、系の特徴を良く反映した基底関数が得られ、また抽出された信号成分が系のダイナミクスを適切に記述していることが示された。この結果も論文および学会にて公表した。
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