本年度は2003年度に行った3次元オイラー方程式の中規模解像度スペクトル法直接数値計算で得られた流れ場のデータ解析を中心に行った。主な目的は従来行われてこなかった新しい解析手法の開発である。本研究では解析的な初期条件から出発したオイラー方程式の解の空間座標(空間は全方向について周期境界条件)ついて解析接続を行った複素空間流れ場を解析している。 最初の目標は解が解析的である境界(複素空間に存在する)を数値的に構成し、可視化することであった。高波数における解のフーリエ係数の情報から境界が構成できることが示せつつある。特にフーリエ係数の絶対値の情報からは空間座標虚部における境界が構成される。また、フーリエ係数の位相の情報からは境界の空間座標実部が決定される。この過程で、対称性のある流れ場を用いることで複素空間における流れ場の自由度が下がり、数値的または理論的解析が大幅に容易になることが判明した。例えばある時間帯で空間座標実部を固定することなどができそうである。数値的な境界の同定は原理的に困難でないことが判明したが、その可視化は、対称性を利用した低い自由度のものについても、まだ洗練が必要である。 次の目標は、数値的に同定された境界周辺で流体力学的諸量(速度、渦度等)がどのように振舞うかを明らかにすることであった。境界に近付くにつれて渦度が代数的に爆発することを示唆する結果が得られている。しかし、その代数的爆発の幕則の同定などの精査にはさらに大きな空間解像度の直接数値計算結果が必要である。また、実2次元渦層(バーコフ・ロッタ方程式)の正則性の研究の精神で初期時刻周辺の漸近解析を3次元オイラー方程式でも行うことが可能であることがわかった。この結果は、初期時刻周辺ではあるが、渦度の代数的爆発の同定を理論的に解析する可能性を示唆している。
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