研究概要 |
本研究課題は,カオス的な量子動力学の誘発する絡み合いと干渉破壊に関して,複素半古典論の言葉で表現された,Stokes現象を利用した,新しいシナリオの検証を目指しています.特に,本年度は,Stokes現象を支配する焦点(caustic)の配置について,数値実験と解析的な考察を交えた研究を遂行しました. 標準写像を用いた数値実験から,(近)可積分系と強いカオス系での焦点の配置の定性的な違いを見いだしました.特に,強カオス系では,初期値集合中の"不安定方向"に主要な寄与が集中しますが,その"不安定多様体"へ焦点が"刺さる"様子が観察されました. このことから,一般に,焦点の配置は,カオス系の引き伸ばし動力学に,弱い非線型性が加わる模型で記述できる.とする仮説を立てました.これを,拡大摂動写像,および,摂動を受けたArnold描写像で調べました.ここで,特に,リアプノフ数(もしくは時刻)無限大での漸近挙動に着目しました.この結果,焦点の配置は,摂動が代数関数と超越関数である場合,定性的に異なることがわかりました:(1)摂動が代数関数の場合,一般に,焦点は0(1)だけ実(軌道)から離れた不安定固定点へ,指数関数的に速く収束します.(2)超越関数の場合,無限個ある焦点のなかで,実(軌道)へ指数関数的に速く収束するものが存在します.いずれの場合も,作用虚部(確率振幅の絶対値を与える)自体は0(1)となることを示しました.短期間で解決すべき課題として,これらの挙動を,一般的な強カオス系の数値実験で検証することが残っています.
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