本年度は、静周期磁場を横切る原子が、ゼーマン副準位間で共鳴的に遷移を起こすことの観測に成功した。これにより、本研究の目的の最も重要な部分が達成されたことになる。また、その共鳴によって引き起こされるコヒーレントな過渡現象の観測のための道筋もついた。以下、その詳細について述べる。 サンプル原子は、ガラス容器(セル)の中に閉じ込めた気体ルビジウム原子である。セルは薄く、内部のギャップは0.2mm、ガラス板を含めても1.2mmの厚さである。それを周期的に配列した電流線で上下から挟み、内部に周期1mmの静周期場が作られた。原子に円偏光のレーザー光を照射し、ある速度(典型的には150m/s)をもった原子だけをドップラーシフトで選択的に偏極しかつ観測した。磁気共鳴を起こす条件、つまり(副準位間の周波数差)=(速度)/(周期)を満たすと、磁気共鳴が起こることが観測された。得られたスペクトルは、通常の磁気共鳴、つまり、振動磁場を印加しておこる磁気共鳴の場合と同様であった。また、上の共鳴条件が、様々な選択速度で成り立っていることも確認できた。 観測された遷移は、本質的にコヒーレントに起こっているはずであるが、その直接の観測を目指し、コヒーレント過渡現象であるスピン章動運動の観測に取り組んだ。その結果、スピン章動運動を観測するところまで到達できた。ただ、まだ信号の測定感度が不十分で、レーザーや磁場の強度を十分弱くできないため、それらにより時間発展が支配されていて、周期的な磁場によって遷移がコヒーレントに起こっているということの完全な実証には至らなかった。しかし、観測の成功への道筋は出来たと考えている。 並行して進めている、イオンビームの結晶チャネリングにおける同様の現象であるコヒーレント共鳴励起の研究も着実な進歩を遂げることができた。
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