研究課題
昨年度は、ストロンチウム^3P_2準安定状態の短寿命化の原因としての黒体輻射誘起緩和機構を解明し、環境温度を変化させる外挿操作により、絶対零度における寿命を決定した。この短寿命化は、ストロンチウム原子を光周波数標準として利用する際に、Q値の低下という悪影響を及ぼす。同様の悪影響として、原子同士の衝突による、線幅の広がりや遷移周波数のシフトがある。極低温原子同士の衝突は、散乱長と呼ばれるパラメータのみで記述できることが知られているが、これは、近距離分子ポテンシャル形状に極めて敏感に依存するので、第一原理計算によって精度よく決定することができない。そこで、本年度は光会合分光法と呼ばれる手法を用いて、この散乱長の決定を試みた。まず、スピン禁制遷移による磁気光学トラップ中で冷却された極低温原子を、1次元光格子中に捕獲したサンプルを用意し、それに電気双極子許容遷移^1S_0-^1P_1に対して負に離調したレーザー光を照射した。このレーザー光が束縛励起状態の固有振動準位に共鳴するときに、原子は双極子双極子相互作用による準分子を形成する。この準分子は原子の励起状態寿命の半分の時間で光子を放出して崩壊するが、この時得られる運動エネルギーはトラップ深さよりもずっと大きいので、原子数の損失として光会合が観測されることとなる。得られたスペクトル位置は、半古典的な予測と極めてよく一致し、これにより、^1P_1励起状態寿命を5.263(4)nsと決定できた。さらに、スペクトル強度の変調から、基底状態波動関数を再生することに成功した。これにより、波動関数の節の位置を同定し、散乱長を1.1(2)nmと決定した。この値から導かれる周波数シフトは、原子数密度10^<12>cm^<-3>の時に1Hzである。また、散乱長が正であることから、蒸発冷却によるBose-Einstein凝縮体の生成可能性も示すことができた。
すべて 2004
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Physical Review Letters Vol.92,No.15
ページ: 153004