本研究の第一の目的は、球状マイクロエマルションに高分子鎖を強く閉じ込めることで現れたシリンダー構造の形成機序を明らかにすることであった。孤立した球状マイクロエマルションに様々な強さで高分子鎖を閉じ込めた結果、マイクロエマルション構造は球からシリンダー状に転移し、そのサイズは界面活性剤と分散相溶媒の組成比の保存則の下、内包した高分子濃度で決まることが明らかとなった。 第二の目的は、シリンダー相の熱力学的安定性を明らかにすることであった。濃厚なシリンダー相では、「剛体」棒と同様、排除体積の効果により並び始め配向する(液晶状になる)可能性と、エネルギー的に不安定なシリンダーの末端(end-cap)を無くすようネットワーク状などにモルフォロジー転移を起こす可能性が考えられた。この問題に対し、実際に系中のシリンダーの体積分率を徐々に上げていき、そのとき現れる高次構造を中性子小角散乱法と偏光観察法を用いて追跡した。中性子小角散乱実験の結果、シリンダー状マイクロエマルションの体積分率を上げて行くに従い、異方性を示す2次元パターン示すことを捉えた。これは排除体積の効果によりシリンダー状膜が配向し、ネマチック状態になったことを意味する。同時にマクロな状態での偏光性の有無を調べた結果、中性子小角散乱実験と同様に濃厚シリンダー状マイクロエマルションでは偏光性を示し、ネマチック相になっていることが明らかとなった。エネルギー的に不安定なシリンダーのend-capを保持したまま、ネマチック相を形成する理由として、高分子鎖の内包の影響が考えられるが、その詳細についてはまだ明らかではない。 今回の研究により、膜単独系では予想されない現象が、膜系の一種であるマイクロエマルションに高分子を複合させることで現れるといった興味深い結果が得られた。
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