生体膜やナノスケールの膜構造のモデル系として注目されている、界面活性剤分子の自己集合構造に対する圧力効果を調べ、構造形成要因の解明を目的とした。本研究では、まず(1)前年度開発した高圧容器の改良を行った。この高圧容器は顕微鏡観察に開発されたものであるが、窓材をダイヤモンドに改良することによりX線小角散乱実験が可能となった。さらに、(2)非イオン界面活性剤C16E7/水、C16E6/水系において、紐状ミセルのネットワーク構造を形成する数10%の界面活性剤濃度において、温度を一定の条件下で中性子小角散乱実験を行った。これまでの実験結果から、2000気圧程度の圧力下で長周期の秩序相(ラメラ構造)が出現することが分かっていたが、界面活性剤の疎水基が指組構造のゲル相(水和固体相)であることを初めて見出した。また、ゲル相への相転移曲線が界面活性剤の疎水基と同じ炭素数を持つヘキサデカンの融解曲線と一致し、ゲル相への転移が疎水基の固化によって決まることが明らかとなった。(3)圧力の効果をさらに詳しく調べるために、ミセル相における圧力効果を中性子スピンエコー法により調べた。ミセル相の単位構造(紐状ミセル)は圧力増加で静的構造も動的構造もほとんど変化を示さない一方、高次構造である紐状ミセルのネットワーク構造が圧力増加とともに変化した。構造解析の結果、界面活性剤濃度が濃厚な部分と希薄な部分がμスケールのドメイン構造を形成し、動的構造を特徴付ける緩和速度も小さくなることが分かった。この結果から、圧力増加により疎水性相互作用が増して疎水基間の引力が大きくなったことが示唆され、圧力変化では主に疎水基の圧縮性や疎水基間の疎水性相互作用により構造が変化していくことが明らかになった。
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