研究課題
近年、内核外核境界付近の詳細な地震波速度構造が求まってきているが、その波形データとダイナミクスとの間の対応付けはいまだ不十分である。本研究では、この対応づけの基礎研究として、固化過程を超音波でモニターする実験を行った。28-30重量パーセントの塩化アンモニウム水溶液をアナログ物質として用いる。この系は、樹枝状結晶を晶出し、部分溶融体のアナログ物質として広く使われている。側面をアクリル、底面を銅板で作った薄型水槽(高さ18cm、幅18cm、奥行き1cm)に水溶液を入れ、下面に不凍液を循環させ、共融点(-15.4度C)以下まで冷却する。超音波(P波とS波、中心周波数1MHz、10MHz)を奥行き方向(1cm)と幅方向(18cm)の両方で負の矩形パルスを与え、透過法により測定した。出力シグナルは適宜アンプで増幅した。波形はデジタルオシロスコープで平均化し、計算機に取り込んだ。温度構造は、鉛直に並べた熱伝対列により測定した。伝播距離1cm の場合:結晶が晶出すると、振幅減衰が顕著に見られ、その後に伝播速度が増加した。1-2MHzの周波数領域でQを一定とすると、Q〜30と求まる。共融点以下になると、速度は不連続に増加し、振幅は液体と同程度になった。伝播距離18cmの場合:この場合は部分溶融体の生成とともに、伝播速度がいったん遅くなり、やがて、長周期成分が速く到達するという速度分散を持つウエーブパケットが現れる。正分散はレイリー散乱の特徴であり、この原因として伝播距離が長くなったことにより散乱効果が重要になったためと考えられる。部分溶融状態ではS波とはっきり認定できる相は判別できなかった。共融点以下では、固体のS波の相が認定できた。Vp=3776m/s, Vs=1739m/sより、Vp/Vs=2.2、ポアソン比0.37と求まる。S波素子を90度回転させた配置でも測定することにより、S波の異方性を測った。異方性のセンスはSH>SVで大きさは約5パーセントであった。振幅はSH波の方が大きかった。この異方性は大きさも単結晶の塩化アンモニウムが横波異方性を持つことにより説明できる。
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