研究概要 |
種々の太陽定数の値のもとにおける灰色大気の多重平衡解の調査を行った.使用したモデルは灰色大気の3次元プリミティブモデル(GCM)と南北1次元のエネルギーバランスモデル(EBM)である.地表面アルベドの値は,表面温度が結氷温度未満となる領域では0.5,そうでない領域では0とした.GCMによる数値計算の結果,太陽定数が増加するにしたがって解の種類と数は以下のように変化することがわかった. (1)解は全球凍結解のみ.平衡解の数は1個. (2)全球凍結解と部分凍結解.平衡解の数は2個. (3)全球凍結解と部分凍結解と暴走温室状態.平衡解の数は2個・ (4)全球凍結解と氷無し解と暴走温室状態.平衡解の数は2個. (5)全球凍結解と暴走温室状態,平衡解の数は1個. (6)暴走温室状態のみ.平衡解の数は0個. 平衡解の種類と数の変化の仕方はEBMとはば同様である.ただし,遷移の起こる太陽定数の値はGCMとEBMでは異なる. GCMで得られた部分凍結状態の氷境界緯度は22度よりも高緯度の領域に存在する.これは,EBMで議論されてきたlarge ice cap instabilityがGCMでも発生することを示唆する.EBMで求められた不安定平衡解の対応物は3次元系でも存在すると思われる.しかし,それらの不安定解は時間発展問題を解くGCM計算では得られない.氷境界が30度よりも低緯度に存在する解はEBMでは不安定となるのに対して,GCMで得られた氷境界緯度が22度である解は氷境界付近の凝結加熱によって安定に維持される. 一方,太陽定数が増大した場合にGCMで得られる氷面棟が小さい部分凍結解では,氷境界緯度の振動が見られた.これは,太陽定数増大時には安定周期解と不安定平衡点が存在することを意味しているのかもしれない.つまり,EBMで得られたsmall ice cap instabilityは,GGMではHopf分岐という形であらわれている可能性がある.
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