研究概要 |
平成16年度では1999年から2001年にかけて発達したラ・ニーニャに伴い、海洋大陸から熱帯インド洋において対流活動が活発化し、大気の熱源応答(Masuno-GIII)を介して、中央アジアからインド亜大陸の北部の旱魃が引き起こされた原因を調査し、論文として発表した(Ueda and Kawamura 2004)。また、引き続く夏のモンスーンは強い傾向にあり、大気海洋相互作用を経て、日本付近の高海面水温偏差が形成されことについても明らかにした。Ueda et al.,(2003a)では、現地観測から得られた地上気温、積雪深および降水量データとECMWF再解析データを用いて、ユーラシアの雪解けと大気循環場の物理的な関係を、季節変化と年々変動の時間スケールにおいて明らかにした。特に、多雪年は3月から4月にかけての地上気温が負偏差であるにもかかわらず、消雪後の5月以降は地上気温に有意な差が認められなかった。つまりHahn and Shukla(1976)の説を直接支持する結果には至っていない。 これまでプレモンスーン期のチベット高原上の加熱は、主に地表付近の顕熱加熱が乾燥熱対流で対流圏の中・上層へ運ばれるとするとされてきた(Yanai and Li,1994)。これに加えて急峻な山岳域に偏西風がぶつかることによって引き起こされた上昇流が対流活動を誘発し、これに伴う凝結熱加熱の寄与が新たにUeda et al.(2003b)によって明らかにされた。モンスーンの最初の開始は5月中旬のfirst transitionと呼ばれ、プラネタリースケールの様相を呈している。プレモンスーン期のインドシナ半島は地理学的に、モンスーン西風気流と熱帯偏東風が合流する場所にあたり、5月中旬のオンセット以前にも降水に起因した凝結熱加熱があることが、現地観測データ(Matsumoto 1997)やGAME再解析(Ishizaki and Ueda 2004)から明らかになった。一方、ベンガル湾では、プレモンスーン期に強い下降気流による対流抑制が見られ、6月上旬のabruptとの関係が示唆される。
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