昨年度取得した草地と森林における土壌水・水蒸気・植物体内水等の同位体データを用いて解析を行った結果、個々の地表被覆に関しては、植生(土地利用)情報と土壌水の同位体組成が既知であれば、水蒸気フラックス同位体組成の評価・予測が可能であることが確認された。 次に、以上の知見・手法を広域に拡張した場合の問題点を把握するため、筑波大学近辺ならびに関東平野スケールでの大気水蒸気多点サンプリングを実施し、その同位体組成の時空間分布特性を把握した。 その結果、高度数m程度の測定値から評価された水蒸気フラックスの同位体組成は、マイクロスケール(〜2km)ではほぼ均質とみなすことができることが確認された。また、メソγスケール(2〜20km)では巨大な水体(霞ヶ浦)からの水蒸気供給の影響が検出された。さらに、メソβスケール(20〜200km)では、バックグラウンド水蒸気の同位体組成そのものが陸域起源水蒸気の寄与を受けて空間的に均質ではなくなっている事実が明らかとなった。特に、鹿島灘から海風が侵入する状況下では内陸に向かうにつれ水蒸気同位体組成が低くなる傾向が見出され、陸域起源水蒸気と海洋起源水蒸気の混合が示唆された。これら広域における異種水蒸気塊の混合過程についても、基本的にはKeeling Plotを用いた解析が有効であることが確認された。 以上の結果を踏まえて陸域再循環率の算定アルゴリズムを構築し、再循環率が比較的高いと予想されるモンゴルでの観測データについて試算したところ、およそ20%という値が得られた。
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