流れ方向と直交する方向に伸びる急峻な海山列上での傾圧不安定を、二層模型を用いた数値実験を行い調べた。海山列上では初め上・下層の惑星波の共鳴条件が満たされないため不安定の発達は抑制されるが、実験開始後500日までには、海山遠方で不安定の発達により形成された渦が移流され、海山付近でも渦に伴う流れが形成される。このような渦に伴う流れは、非線型性が強いため順圧成分も大きく、そのため海底地形の影響を大きく受ける。渦位等値線が壁と交わりかつ相対渦度がそれほど大きくない場合、そこでの無流条件によって下層では定常的な流れが形成されない。しかし渦位等値線が壁にぶつからない場合、あるいは渦に伴う流れが強く相対渦度によって渦位の等値線を閉曲線にできる場合(Foffonoff mode)、渦位の等値線に沿った比較的定常な流れが形成されうる。この定常流は多くの場合海山を右に見て流れ、海山下流で選択的に前線の張り出しが生じる。この結果は前線を横切る方向の海水輸送が海山下流で頻繁に行われることを示唆する。そこで中層水を再現しうる三層模型を用いて同様の実験を行ったところ、確かに中層水の前線横断方向輸送が海山下流側で選択的に起こることが確認された。また中層と深層の密度差を変えても定性的な変化は見られず、広いパラメターレンジで起こりうることが示唆された。 また所有する海洋非静水圧模型に複雑な海底地形を扱えるように改良を施した。最も計算負荷のかかる圧力方程式の計算を効率良く行うため、交互方向陰解法と巡回縮約法を組み合わせた解法を新たに開発した。その結果、従来から良く用いられている共役勾配法を用いた場合に比べて少なくとも数分の一の計算時間で実行される結果となり、効率の良い計算が可能となった。
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