前年度までに、浅領域を右に見る順圧流が中層水の輸送に重要であること、この順圧流の形成には傾圧不安定と海底地形が重要な役割を果たすこと、の二つが示唆された。そこで今年度は、まず傾圧不安定と海底地形が浅領域を右に見る順圧流をどのように形成するのかを調べた。日本海を模した二層模型を用いて数値実験を行った結果、対馬暖流の傾圧不安定が有限振幅に達し100km程度の水平規模を持つ順圧性渦を形成すること、二次元乱流の特性により順圧性渦の水平規模が増大すること、海底地形がある場合には浅領域を右に見る順圧流が最終的に形成されること、が明らかとなった。渦度の時間発展方程式を調べた結果、水深変化による流体柱の伸縮が相対渦度を強制し、このことが浅領域を右に見る順圧流を形成していることがわかった。 また、日本海の中層水が大和堆・隠岐海脚の付近で南下する様子が観測されているが、同様の中層水の南下が浅領域を右に見る順圧流によって生じることが実験からわかり、この順圧流が現実の中層水輸送に重要な役割を果たすことが指摘できた。さらに、実験で生じた深層流の空間構造は、観測される日本海の深層流と定性的に一致しており、上述の順圧流形成機構が、日本海深層流の駆動機構である可能性が強く示唆された。 一方、冬季前線域での表層水の沈み込み過程を調べるため、非静水圧模型を用いて実験を行った。特に水深に対する依存性に着目して調べた結果、水深が深い場合には不安定の成長が遅くなるなど定量的な違いは見られたが、沈み込み過程やそれに対する冷却の効果等は、定性的に変化しないことが確認できた。また、実験結果と観測された表層水の沈み込み過程を比較するため、ワシントン大学のLEE教授を訪れ議論を行った。その結果、本研究で得られた結果が、現実の日本海でも生じているとの結論が得られた。
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