研究概要 |
1.購入した設備備品(超音波恒温水槽・マッフル炉・定温乾燥機など)を利用して,宇宙線生成核種法の迅速試料処理を行うための実験系を構築することに成功した. 2.平成15年8月17日から同年9月2日にかけて,ロシア連邦に渡航し,試料採取が困難なバイカル湖北部山岳域から,地形露出年代決定用の試料を採取することに成功した. 3.山岳氷河によりバイカル湖南岸に残された迷子石の露出年代を,宇宙線生成核種法により決定した.その成果は,原著論文として国際誌に受理され,平成16年度中に出版される予定である(11研究発表欄参照). 4.バイカル湖北部,バルグジン山脈脊梁部の圏谷を対象に,計15試料について宇宙線生成核種(^<10>Be・^<26>Al)の分析を行い,その地形露出年代(氷河の消滅年代)を決定した.その結果,少なくとも1万年前には,バルグジン山脈脊梁部にてほとんど全ての氷河が消滅したことが明らかになった.試料採取地点の地形的位置より,これはバルグジン山脈全体での氷河の消滅年代と同義とみなすことができる.この成果は,バイカル湖周辺にかつて存在した氷河の消滅年代を,世界で初めて明らかするものである. 5.バイカル湖の南部と北部の双方にて,宇宙線生成核種法により得られた氷河地形・堆積物の露出年代は,およそ半数が1万3千年から1万5千年前の期間に集中した.この期間は,世界的気候変動の退氷期における一時的な温暖期にあたる.この時代に,氷河の後退が特に激しかったと考えると,バイカル湖湖底堆積物の解析結果とも調和的である.今後は,地形的な考察をより深め,さらに未分析の試料についても宇宙線生成核種分析を行うことにより,詳細な氷河の前進・後退史を編む予定である.
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