研究概要 |
本研究は,有明海の諫早湾干拓や韓国のセマングム干拓の潮受け堤防建設に伴う貝類群集の変化を調査し,それらを比較することで人為的な環境変化に対する生物群集の応答の普遍性を明らかにすると共に,それを第四紀に見られる氷河性海水準変動に伴う化石群集の変遷と比較することで,急激な環境変動に対する生物群集の応答の実態を追求することを目的としている.本年度は,2003年8月に諫早湾干拓調整池における採泥調査を行ない,潮止めから6年後の貝類群集の変化を調べた.その結果,2002年4-5月に短期開門調査を行なったにもかかわらず,その後に貝類群集の種構成が変化することはなく,調整池内では今でもわずかにヤマトシジミが生息するのみであることを確認した.また,2003年6月には有明海全域における貝類相の定性調査を行なったが,諫早湾潮止め後に一時的に増殖したヒラタヌマコダキガイが佐賀県や福岡県の河口干潟に現在も群生していることを確認した.これにより,諫早湾短期開門調査は調整池内の貝類相に変化をもたらすだけの十分な時間の開門が行なわれておらず,さらに中長期の開門調査が必要であることを明らかにした.一方,2003年7月と9月に韓国セマングム干拓地を訪れ,各地の干潟において底生生物の定量調査を行なった.セマングム干拓地では,2003年6月に潮受け堤防の北半分が締切られ,干拓予定水域急激な塩分の減少が見られた.しかし,貝類は昨年と同様の種数・平均個体密度を維持しており,現時点では干拓堤防締切の影響はあまり見られていないことを確認した.本研究の成果は,2004年1月に開催された古生物学会シンポジウム「干潟の自然,その過去と現在」において発表したほか,日本湿地ネットワークや韓国環境運動連合の機関誌で速報が掲載された.
|