研究概要 |
軟体動物の多くは炭酸カルシウムからなる貝殻を持つことで特徴づけられる。貝殻は均一な構造物ではなく、複数の種類からなる結晶の複合体である。そのため、貝殻は微視的には多数の形態形質の集合体とみなすことができる。この特徴に注目して、貝殻の結晶レベルの構成(殻体構造)を明らかにすることで、貝殻の進化過程を議論することが可能である。 腹足類全体の進化過程を考察する上では、その起源を推定することが重要な課題のひとつである。そこで、腹足類の中で最も原始的なクレードとされるカサガイ類(Patellogastropoda)に注目し、およそ50種以上の種を用いて、殻体構造の違いを詳細に比較検討した。その結果、カサガイ類の科レベルあるいは亜科レベルに相当するサブクレードでは、それぞれ特徴的な結晶の組み合わせを持っていることが明らかになった。そして、それらは生息環境の違いよりも分類群の違いを反映しており、系統性を強く反映する形質であることが明らかになった(Fuchigami & Sasaki,投稿中)。今後はカサガイ類全体の系統関係と比較することにより、個々の形質の形質進化とを考察することが主要な課題である。 殻体構造と系統関係の対応を知る上では、貝殻の比較検討だけでなく、軟体部の比較解剖のデータを得ることも重要である。そこで、笠型貝類のひとつであるシンカイフネアマガイ類の解剖学的研究も行った(Sasaki et al.,in press)。シンカイフネアマガイ類が属するアセオブネガイ類(Neritopsina)は交差板構造を主体とする(Sasaki,2001)。アマオブネガイ類は深海から陸上にまで幅広く適応しており、今後それらの殻体構造を比較することにより、殻体構造、生息環境、系統関係の3者の対応関係を検証する予定である。
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