研究概要 |
二枚貝のうち,アサリやハマグリなどのマルスダレガイ類には,成長とともに殻の輪郭が著しく変わるものがある。このような二枚貝について,殻の成長縁に沿った部位毎の相対的な成長量パターンを調べたところ,基本的なパターンは成長を通じてほぼ一定であることが明らかになった。また,殻成長のコンピューターシミュレーションから,同じ成長量パターンのもとでも異なる殻形態を作ることが可能であることがわかった。また,シミュレーションから,殻の輪郭と殻の巻き方との間にある一定の束縛関係が理論的に想定されたので,実際の計測によって検証した結果,その関係を確かめることができた。また,ある決まった成長量パターンの下で形成可能な殻形態のスペクトルが,殻の輪郭や成長量パターン自体によってもかなり異なることを示した。たとえば,円に近い輪郭を持つ二枚貝では,成長量パターンを変えずに殻の膨らみを増すことは容易だが,ハマグリのような三角形の貝では,成長量パターンを変えずに殻の膨らみを増すためには,殻の後部を伸ばす必要があることが明らかとなった。この結果は,実際のハマグリが成長とともに横長になる理由を説明する。こうした関係は,成長にともなう形態の変化に限らず,形態の進化をも同様に制約すると考えられる。また,マルスダレガイ類には殻の巻き軸の前方への沈下が広く見られるが,こうした特徴は,成長量パターンの変更なしに殻の巻き方の変化を容易にする効果を持つことがわかった。Ubukata (2000,2001)などの結果とあわせて考えると,巻き軸のプランジは筒淡靭帯という新たな靭帯の進化によって可能となり,堆積物に潜るのに好都合な形と,殻形態の高い変異性(可塑性)とを同時に提供し,マルスダレガイ類の繁栄と多様化に重要な役割を果たしたのではないかと考えられる。
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