研究概要 |
日本海における陸上高等植物由来脂肪酸、炭化水素の過去2万年における炭素同位体比の変動 日本周辺における氷期の気候変動を解明するために過去2万5千年における脂肪酸、脂肪族炭化水素の存在量並びに安定炭素同位体比の測定を行った。試料は日本海隠岐堆の南東で、KH-79-3,C-3コアの対岸堆積物となる。脂肪族炭化水素(n-C29,n-C31アルカン)は過去2万5千年間で-31〜-29‰の範囲で変動し、後氷期の方が重い値を取った。これらの値はC-3coreとはほぼ整合的であることから陸上高等植物の飛来メカニズムは同等であったと推測される。今回新たなデータは脂肪酸の安定炭素同位体比である。これらは-34〜-25‰の範囲で変動し、後氷期の方が重い値を取った。脂肪酸のデータは既に日本周辺で海洋表層堆積物に関してデータは豊富に存在する。脂肪酸の海洋堆積物における同位体比の決定要因は(1)陸上からの距離(Naraoka et al, 1999, Naraoka et al., 2001)、(2)成長速度並びに植生に関連した緯度、に依存すると考えられる。この作業仮説の元に、現世の脂肪酸の同位体データベースを用いて2変数、すなわち距離と緯度を変数とした多変量解析を試みた。その結果、陸上高等植物由来の脂肪酸(C20<)に関して重相関が高い結果が得られた(最大で0.77)。これは最初に立てた作業仮説を支持するものである。これを元に炭素数20以上の脂肪酸を採用し、氷期における気候変動の手がかりを探った。陸上からの距離は世界の海水準が約120m低下したと仮定したときの距離(約55km)を代入することで、緯度が算出される。これは現在に換算した緯度の気候が氷期にその場所で存在していたことになる。計算結果は平均で北緯44度となった。これは氷期における花粉などから得られた夏の極前線の位置と全く同期した。また現代に近づくにつれ、見積もられた緯度が移動していくさまが確認された。このことを本年9月スペイン、セビーリャで催されたInternational Meeting on Organic Geochemistry、本年9月、那覇で行われた日本地球化学会年会にて発表を行った。現在はこの新手法をOrganic Geochemistryに投稿中である。
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