研究概要 |
高精度計算を目指した相対論的分子理論を完成させるために、本年度は、以下の研究を行った. 「相対論的pseudospectral法の開発」 pseudospectral(PS)法はグリッド基底と解析的基底の混合基底を計算の基底として使用する方法である.この方法を用いると計算のスケーリングコストをO(N^4)からO(N^2M)(N:基底関数の数,M:グリッド点の数)へ減らすことが可能となり、大規模系の計算に対してより効率的である.本研究では,高精度で大規模な相対論的計算を実現するために,PS法とこれまでに開発してきた相対論的密度汎関数法(RDFT)を組み合わせた.幾つかの応用の結果,PS-RDFT法は十分効率的で,重原子を含む大規模分子系の計算に有効な方法となることがわかった. 「相対論的電子相関理論のための積分変換の開発」 電子相関法の第一段階では,原子軌道積分から分子軌道積分への積分変換が必要となる.積分変換のステップはNの5乗のオーダーの計算コストを持つため,計算負荷の高いステップとなる.そこで相対論的電子相関理論の開発の第一段階として,高速な4成分積分変換の開発を行った.具体的には2成分型一般短縮ガウス基底spinorを用いることでsmall成分用の基底関数を従来の方法の約半分に減らすことで高速化した,従来の方法に比較して今回開発した積分変換は4倍以上高速である. 「相対論的クラスター展開法の開発」 高精度な重原子分子系の計算を実現するために,相対論的クラスター展開(CC)法の開発を開始した.高次CC法になるにしたがって定式化が複雑になっていくが,TCEを用いて自動化することで実現した.現在,1成分相対論的分子理論に対するCC法が完成している.スピン-軌道相互作用が小さい分子系に適用した結果,TCEに基づいた1成分CC法は,高い精度でその分光学的定数を見積もることができる.
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