内殻励起脱離反応のダイナミクスを多角的に解明するため、昨年度整備した軟X線放射光とフェムト秒レーザーとを組み合わせた内殻励起中性脱離種の検出・同定実験手法を用いて、イオン脱離で顕著な内殻共鳴励起依存性を示すポリメチルメタクリレート(PMMA)高分子薄膜や、メチルエステル修飾した自己組織化単分子膜(SAM)およびその末端重水素置換体で中性脱離種測定を行い、イオン脱離測定との対比からその内殻励起脱離反応のメカニズムを検討した。 実験は広島大学放射光科学研究センターのビームラインBL13で行った。軟X線放射光照射により脱離した中性種を超短パルスレーザーで非共鳴的にイオン化し、飛行時間型質量分析器(TOF-MS)を用いることで直接脱離したイオン種や残留ガス成分と区別しながら効率良くまた高感度に測定することができた。 PMMAの場合、イオン脱離に比べ様々な種類の中性種が脱離していることがわかった。酸素内殻励起によるイオン脱離反応の場合、特定の共鳴励起でCH_3^+やCH_2^+、OCH^+イオンが選択的に脱離するが、中性脱離の場合はどの脱離種も吸収スペクトルと一致する励起状態依存性を示すことがわかった。このことから、中性脱離反応ではサイト選択的な内殻励起の特徴は必ずしも反映されておらず、イオン性の結合解離過程がその特徴を明示するのに重要な役割を担っていることがわかった。メチルエステルSAMの場合もPMMAとほぼ同様の結果を示しており、試料が単分子膜であることや配向していることは脱離反応の大勢を左右していないことがわかった。しかし、PMMAでは水素付加して脱離していた中性種(例えばHCOOCH_3やCH_4など)がSAMの場合では観測されておらず、SAMではCOOCH_3やCH_3といった末端官能基由来の中性種が直接的に脱離していることが明らかになった。
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