本年度の研究実施計画は、(1)タンパク質構成基本分子の赤外キャビティリングダウン分光法(IRCRD)による赤外スペクトルの観測、(2)レーザー脱離法(LD)によるアミノ酸分子のレーザー分光の二点であった。 (1)タンパク質構成基本分子の赤外分光 (1)ベンゼンクラスターの相転移 超音速ジェット法に生成するベンゼンクラスターのCH伸縮振動の測定を、ベンゼン蒸気圧及びヘリウム背圧をパラメータとして行った。ベンゼン蒸気圧の増加に伴い液体ベンゼンと一致する吸収が観測され、液体構造類似のクラスターが生成されていることが明らかになった。更にヘリウム背圧の増大に伴いアモルファスベンゼンと一致する吸収が観測され、ジェット冷却効率の増大により液体クラスターがアモルファスクラスターへと相転移したものであると結論した。 (2)ピロールクラスター、ピロール溶媒和クラスターの赤外分光 ジェット中に生成するピロールクラスターのNH伸縮振動を観測した。単量体のNH伸縮振動から約150cm^<-1>低波数側に2本の吸収が観測され、既に報告されている理論計算との比較により、これらがπ水素結合により形成された環状3量体、4量体のNH伸縮振動であると結論した。また、ジエチルエーテルとの溶媒和クラスターの赤外分光にも着手し、NH-O型水素結合を形成したクラスターのNH伸縮振動が、単量体から約200cm^<-1>低波数側に観測された。ピロールについては、凝集系様クラスターの生成と赤外分光、及び溶媒和クラスターの赤外分光法の確立を目指し、現在も研究中である。 (2)LD法によるアミノ酸分子のレーザー分光 IRCRDによる安定な測定法が今年度後半に確立されたこと、及びベンゼン、ピロールの基本分子を用いた研究結果が予想を超えて興味深いものであるから、本年度はLD法によるレーザー分光測定の着手には至っていない。現在はLD法を行う上での良好な試料ロッドの生成法について検討中であり、来年度にはLIF分光が行えるものと考えている。
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