極低温での溶液内化学反応および原子分子の分光実験が現在精力的に行われている。常温においては溶媒の量子ゆらぎは摂動として取り込むととも可能であるが、温度が下がるにつれて本質的な役割を果たすようになる。その著しい例として液体ヘリウムにおける超流動現象をあげることができる。近年の実験技術の進歩はこの超流動相内の不純物の分光実験を可能としてきた。本研究の目的は超流動ヘリウム内での原子分子の溶媒和の分子論的な描像を確立し、量子凝縮相での化学反応の理解への道を開くことにある。 今年度は、本研究者が開発した経路積分法に基づく量子シミュレーション手法、経路積分ハイブリッドモンテカルロ法、を用い超流動状態にある液体ヘリウム内の希ガス原子の溶媒和の微視的な詳細について解析を行った。この系は超流動内の量子論的溶媒和の雛形となるべき系であり、実験からも微視的な詳細の解析が待たれていた系である。計算より溶質である希ガス原子の周りに空間的に振動している密度ゆらぎが発生し、良く発達した溶媒和殻構造が形成されていることが分かった。またこの微視的な溶媒和殻構造は温度にほとんど依存しないことが分かった。さらに詳細な知見を得るためにこの溶媒和構造を超流動成分と常流動成分に分割することを試みた。高温領域では、溶質まわりは常流動成分が支配的であるが、温度が低下すると劇的に超流動成分が増大することが明らかになった。この場合もわずかに常流動成分は存在しており、この成分が超流動内での化学的なプロセスをモデル化する際の鍵になることが期待される。
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