本年度は前年度までに開発した超流動ヘリウム溶液に対する経路積分シミュレーション法を溶質が分子である場合に拡張した。これは精密な分光学的な実験が行われている硫化カルボニル分子が超流動ヘリウムに溶媒和している系のシミュレーションを実行可能とするためである。分子は剛体としてモデル化するために、分子の回転自由度を量子的に取り扱う方法を開発した。これは回転の"ルジャンドルポテンシャル"と呼ばれるものを新たに導入することより可能となった。これらを基に剛体回転子-ボーズ多体系に対する経路積分ハイブリッドモンテカルロ法を新規に構築した。この手法を硫化カルボニル分子が溶媒和しているナノサイズのヘリウム液滴に対して適用した。比較のために溶媒であるヘリウムがボルツマン分布に従う系に対する計算も行った。計算より、溶質分子周りのヘリウム原子の密度プロファイルは統計に殆どよらず同様な振る舞いを示すことがわかった。このことにもかかわらず溶質分子の双極子-双極子相関関数は劇的な違いを見せた。特にボーズ統計に従う系の双極子-双極子相関関数は自由回転子のもので良く記述できることがわかった。この際に回転定数が気相のものとは異なる。これは実験で観測されている自由回転子様の振動-回転スペクトルに対応する。計算より得られた回転定数は実験のものと良い一致をしめした。さらに溶質のダイナミクスと溶媒の超流動性との関係を検討した。
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