本研究の目的は、部分重水素置換したアンモニア分子(NH_2DおよびNHD_2)などの小さい分子に対して観測されている、振動励起+電子励起の2段階励起による選択的な化学結合切断の発現機構を明らかにし、より大きな、一般的分子に対する有効性を検討することである。 分子サイズに関する情報を得るために、アンモニアより小さな分子系である、部分重水素置換した水分子HODに対して研究を行った。昨年度、HOD分子のOD伸縮高振動状態(5v_<OD>)からの243nm紫外光分解の実験を行い、OD結合がOH結合の12倍以上の確率で切断されることを見出している。この系に対する量子波束計算を行うことで、選択的OD切断の発現機構について検討した。OD結合方向に広がった振動状態を、比較的長波長の光で電子励起することで、OD切断のみが起こる領域への励起が起こり、その結果、高い選択性が発現していることがわかった。 さらに、分解生成したD原子の共鳴多光子イオン化スペクトルのドップラー線形を解析して、OD切断ダイナミクスに関する情報を得ることで、HODについて観測された高い選択性が、より大きな、一般的分子系に対して発現するかどうか、その可能性について検討した。OD結合切断は非常に短時間で進行し、また、生成するOHラジカルはほとんど振動・回転励起していないことがわかった。即ち、OH結合部分は、OD切断過程にほとんど関与しておらず、OD結合部分だけでOD切断が進行していることになる。従って、今回観測された高い選択性は、OD結合部分に繋がる置換基の形状に依存しないと考えられ、大きな置換基がOD結合に付いた場合でも、同様の高い選択性が得られる可能性があることを示している。
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