希薄金属に関する研究:今年度は整数スピン系の研究の手始めとして半整数スピンではあるが大きな異方性(D)をもち低周波数EPRではその値を決めることが困難な金属たんぱく質メトミオグロビン(スピン5/2)の研究を行った。大きな単結晶試料(5×5×0.8mm^3)を作成し28.5〜608.1GHzの高磁場多周波EPRの測定に成功した。この結果から従来の方法よりも一桁正確なD=9.47±0.05cm^<-1>を求めることができた。また磁場をヘム面にほぼ平行にかけた場合、350GHz以上の高周波数で線幅が急激に増大するという新しい知見が得られ、その周波数依存性の原因について報告した。 高周波ESR装置の高感度化:1.5〜300Kの温度で30〜600GHzにわたり周波数可変なファブリーペロー共振器を開発した。共振器のミラーとカップリング方法を工夫することにより100〜600GHzの広帯域にわたり従来報告されているものより10〜100倍の共振性能(フィネス)を達成することができた。この共振器を16T超伝導磁石中に組み込むためのクライオスタットを設計し多周波ESR装置を作成した。この装置で実験計画通り100〜300GHzにおいて2桁の感度上昇を得た。また、InSbボロメーター高感度検出器と組み合わせることにより現有装置より3桁高い感度(10^<10>spins/Gauss at 1.5K)を実現できた。 この装置を用いデオキシヘモグロビン(スピン2)の単結晶EPRを測定した。広い磁場挿印範囲での共振器の安定性が不十分なため有意な信号を得るには至っていない。現在、装置の安定性を高めているところである。また、Niナノ粒子のグラニュラー薄膜(試料厚さ10μm)を測定し、現有装置では得られなかったNiナノ粒子の強磁性共鳴を60〜300GHzで得ることに成功している。
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