研究概要 |
昨年度は高感度ファブリーペロー共振器(FPR)の開発を行い目標とする感度を得たが、磁場挿印に対する安定度が十分でなかった。よって、今年度はまず共振器の磁場挿印に対する安定化を行った。この結果、線幅(〜2T)の微弱信号でも測定が可能になった。このFPRを用い昨年度測定を行ったメトミオグロビン(Fe^<3+>,S=5/2)と比べ大きな酸化還元電位差(ΔE=270mV)がある西洋わさびペルオキシダーゼ(Fe^<3+>、S=5/2)、の多周波ESR測定を行った。以前の測定装置では信号を得る事も出来なかったが、このFPRを用いる事により30-120GHzの広い範囲にわたり信号が観測され、ゼロ磁場分裂定数D=3.5cm^<-1>を得た。メトミオグロビンではD=9.47cm^<-1>であり、この大きな差は両タンパク質でのヘムの第6配位子近くのアミノ酸残基芳香環の有無と考えた。しかし、酸化還元電位とDの関連性を議論するにはより多くのタンパク質を比較測定する必要がある。 整数スピンを持つ金属タンパク質は生体中に数多く存在し、酸素の授受など重要な役割を果たしている。しかし、従来のESRでは周波数、磁場が低くスピンサイレントと言われていた。今回はデオキシヘモグロビン(Fe^<2+>,S=2)の前段階としてMn^<3+>(S=2)に置換したメトミオグロビンの測定を行った。FPRでは信号が得られなかったため、35GHzと低周波であるが高磁場(16T)まで測定できるシングルモード共振器を開発し測定を行った。この結果、世界で始めて整数スピンをもつ金属タンパク質のESR観測に成功した。
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