研究概要 |
本年度は,若手研究(B)「DNAの二次構造転移の観測」(3年間)の初年度であり,基盤となる技術開発を中心に研究を行った.計画では,初年度は構造転移をプローブする方法と瞬時誘起する方法の両方の開発を行うことになっていたが,若干計画を変更し,プローブ法の開発に集中することにした.それは,瞬時誘起の方法の開発の方が比較的容易であり,後回しにしても構わないと考えたことと,プローブ法の1つとして,計画段階では考えていなかった単分子分光法を取り入れたためである. さて,プローブ法の開発においては,まずラマン分光法を試してみた.溶液ないしは繊維状のDNAのラマンスペクトルを測定して,公知の通りにラマンスペクトルがDNAの二次構造を鋭敏に反映することを確認した.従って,ラマン分光法はDNAの二次構造転移の観測にとって有用であり,今後適当な構造転移誘起法と組み合わせることによって,目的を達成することが出来ると考えている.次に,多光子吸収スペクトルの精密測定法の開発に着手した.多光子吸収法を用いると,溶液試料について通常は測定の困難な真空紫外領域の吸収スペクトルを得ることが可能となり,また,そのエネルギー領域のスペクトルがDNAの二次構造を反映する可能性があると考えたためである.まず手始めとして,マルチチャンネル検出器を用いたフェムト秒非縮退二光子吸収分光装置を開発し,視物質ロドプシンの発色団として知られるレチナールの二光子吸収スペクトルの精密測定を行った.最後に,単分子分光によるDNA1分子の二次構造の観測の検討を開始した.現在,エバネッセント場蛍光1分子イメージングを試みている.
|