研究概要 |
本年度は,若手研究(B)「DNAの二次構造転移の観測」(3年間)の最終年度であり,研究の総仕上げを行った. まず,昨年度までに開発した,マルチチャンネル二光子吸収測定法とマルチプレックス界面電子和周波測定法に加えて,今年度は新たに界面4次振動分光法を開発した.この新方法は,界面選択的な振動スペクトルを得るための方法で,特に,従来法では不可能であった"埋もれた界面"の測定が可能である点が重要な特徴である.埋もれた界面とは,液体や固体など高濃度のバルクに両側を挟まれた界面のことで,赤外-可視和周波分光法という従来法では,赤外光がバルクに吸収されてしまうことがその適用を不可能にしていた.実際に,本研究課題であるDNAなどの生体高分子は,水や細胞膜などに埋もれた界面に存在するケースが非常に多く,そのような界面にあるがままの生体高分子の振動スペクトルは,これまで測定不可能だった.今回の界面4次振動分光法は,可視・近赤外光のみを用いる方法であるため,赤外吸収の問題が回避され,より広い系に適用可能となる.最初の測定例として,水/ガラス界面,水/空気界面に吸着したプローブ色素分子の振動スペクトルを測定して,まず,この方法の界面選択性がナノメートルからサブナノメートルのオーダーの厚みであることを確認した.また,バルク水溶液中には見られないタイプの水素結合が界面に存在することを示唆する重要な結果が得られた. 以上のような強力な3つの分光手法を用いて,DNAの二次構造転移の観測を試みている.DNAからの信号は大変弱く,測定は困難を極めている.今年度内に明快な結果を得ることは難しい状況だが,今後も研究を継続できる予定である. これまでの研究成果は,昨年末のPacifichem 2005で発表し,内外の研究者から大変好評を博した.
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