タンパク質などの巨大分子の電子状態計算のための有望な方法としてフラグメント分子軌道(FMO)法がある。本研究では、計算精度と計算速度を改善するとともに多様な電子状態理論を組み込んで汎用化することにより、FMO法を巨大分子計算法として実用化することを目標としている。本年度は以下に述べる成果を得た。 (1)三体展開FMO法(FMO3)の開発:従来のFMO法(FMO2と呼ぶ)は二体相互作用近似に基づいている。このため、水分子クラスター中の水分子間やタンパク質中のアミノ酸残基間にみられるような複数の水素結合が干渉しあう系では三体相互作用が大きくなるため十分な精度が得られなかった。本研究で、FMO法を拡張して三体相互作用をあからさまに取り込む方法(FMO3法)を開発し、効率よく精度を改善することに成功した。 (2)密度汎関数理論(DFT)を用いたFMO法(FMO-DFT)の開発:電子相関効果を考慮した高精度な電子状態計算法としてDFTが広く用いられている。この方法で巨大分子計算を可能とするために、DFTを用いたFMO法(FMO-DFT法)を開発した。FMO2(3)-DFTはFMO2(3)-HF法に比べて、全エネルギーの誤差(通常のab initio計算の結果との差)が2倍程度(数kcal/mol)となるが、実用上は十分満足できる精度を持つことを確認した。 (3)高効率並列計算法の開発:FMO法の実用化にとって、高効率な並列計算法の開発は不可欠である。FMO法ではフラグメント(一量体)とフラグメントペア(二量体)の計算はほとんど独立なため、一量体(または二量体)単位で並列化し、さらに、それぞれを並列化する2段階並列化法を開発した。これにより、遅いネットワーク(FastEthernet)で結ばれた128台のパソコンクラスターで、80-90%の並列化効率を達成した。 (4)FMO法のプログラム開発:FMO法の計算プログラムを開発し、これを汎用量子化学計算プログラムであるGamessの一部として組み込み無償公開する(平成16年5月予定)。
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