研究概要 |
申請らが合成したケイ素-ケイ素二重結合がスピロ共役した初めての化合物であるスピロペンタシラジエン1は収率3.5%であり非常に低く、これまで1の反応性の解明は困難であった。今回1の前駆体として嵩高いトリス(トリアルキルシリル)シリル基を1,2位に持つテトラブロモジシランを用いることで、1の収率を35%まで向上させることに成功し、1の種々の反応性の解明を可能にした。 1のヘキサン溶液に440nmより長波長の光を超高圧水銀灯で照射すると徐々に反応が進行し、シクロプロペンのケイ素類縁体(シクロトリシレン)2、トリス(トリアルキルシリル)シリルラジカル3および構造不明の化合物が主に得られた。2の生成は光照射により1の環内ケイ素-ケイ素結合の切断、3の生成は1の環外ケイ素ケイ素結合の切断が起きていることを示している。特に2は安定化合物の報告例のないケイ素-ケイ素三重結合化合物を経由して生成している可能性があり興味深い。 スピロペンタシラジエン1は四塩化炭素と速やかに反応し、濃橙色結晶を単一生成物として与えた。この生成物の構造はまだ明確ではないが、1の2つのケイ素ケイ素二重結合に塩素が付加したスピロペンタシランであると考えられる。興味深いことに1は四臭化炭素とも反応し、四塩化炭素とは異なり、1の片方のケイ素ケイ素二重結合にのみ臭素が付加したスピロペンタシレンと考えられる生成物を与えた。この生成物は1のスピロ共役をより詳細に理解する上で鍵となる化合物であり、現在単離および紫外可視吸収スペクトル測定などを検討中である。またこれに関連して、安定な3員環ジシレン2の特異な光反応、シリル置換ジシレンのシリル置換基の転位反応を明らかにした。
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