高温状態にある火山の噴火口で見られる濃青色の鉱物はモリブデンの酸化物で、モリブデンブルーとよばれている。モリブデンブルーは、水に溶けて鮮やかな青色を示し、1783年にCarl Wilhelm Scheelによって初めてその存在が報告された。その後、実験室レベルで合成できるようになったが、条件によって構造が複雑に変化するため、最近までその構造の詳細はほとんど知られていなかった。1995年、Achim Mullerらは数例の巨大なモリブデンブルーのX線結晶構造解析に成功した。彼らは様々な条件下においてモリブデンブルーを調製し、巨大な環状および球状のポリオキソモリブデン酸クラスターが生成することを明らかにした。しかしながら、溶液中での構造の不明瞭さや、有機化合物のような合理的合成法や同定法がないことなどから、それらの基礎的な物性調査や、機能開発などの応用研究はほとんど行われていない。 このような背景から、本研究では、巨大な環状構造を持つモリブデンクラスター(MC)を用いた新規な超分子ナノマテリアルの開発と応用に取り組んだ。一般に無機化合物は合理的な合成が困難であるため、有機化合物などの機能性エレメントと複合化させることによって新規な機能を発現させることができる。例えば、ゼオライトやメゾポーラスシリカなどの多孔性マテリアルは、有機化合物との複合化によってさまざまなユニークな機能を発現させている。本研究では、このMCに機能性有機分子や金属イオンを相互作用させることによって、全く新規な機能性ナノマテリアルの開発に成功した。
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