ジシクロブタベンゼンおよびトリシクロブタベンゼンはベンゼン環に複数の四員環が縮環したひずみ構造を有し、興味深い反応性や物性を秘めている。しかし、これらの化合物の合成は困難であるため、その構造、反応性、合成的有用性などについてはほとんど調べられていない。したがって、このように高度にひずみを持つ化合物の効率的な合成法の開発が望まれている。 一方、先に我々は、ベンザインとケテンシリルアセタールの[2+2]環付加反応による多官能性のベンゾシクロブテン誘導体の効率的な合成法を報告している。今回、この反応に着目し、これを繰り返し用いる方法で、上述のシクロブタベンゼン誘導体の合成を試みた結果、シクロブタベンザインの[2+2]環付加反応による多官能性のジシクロブタベンゼンおよびトリシクロブタベンゼンの効率的な合成法を開発することができた。特に、四員環上にカルボニル基を持つ化合物は、より大きなひずみを蓄えることになり、その合成は難しいことが予想されるが、この方法により、高度に酸素官能基化された化合物の合成も達成することができた。 また、この反応で特徴的なことは、位置選択的に反応が進行することである。すなわち、上述のシクロブタベンザインとケテンシリルアセタールの環付加反応はhead to head型で位置選択的に進行し、見かけ上、立体的に込みあった化合物が選択的に得られることが分った。一方、興味深いことに、対応する五員環および六員環を有するベンザインの反応では選択性は激減した。詳細な検討の結果、この位置選択性の発現の起源の本質は、四員環のひずみ効果にあることを明らかにした。
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