昨年度、キラル側鎖を有する光学活性ナフタレン化合物とオルトクロラニルとの光反応において、オルトクロラニルはナフタレンのジアステレオ面を高度に区別して[4+2]付加すること(最高92:8)を見出し、生成物の立体化学およびキラル分光測定の結果から光電子移動で生成するナフタレンラジカルカチオンに対するキラル側鎖の求核的相互作用の寄与が示唆された。 今年度、1)求核的作用に関与する官能基の特定、および2)一電子酸化する前の中性基質と酸化後のラジカルカチオンとの間の動的構造の変化の有無について研究を行った。 光付加反応の高い面選択性と円二色性(CD)スペクトルにおける比較的強いコットン効果とがともに見られる側鎖には酸素官能基とベンゼン環とが含まれていて、ともにラジカルカチオンに対して電子供与可能である。そこで、ベンゼン環に置換基を導入しπ電子密度を変化させ、面選択性およびCDスペクトル測定を行った。MeO基およびCN基を導入しても面選択性およびCDスペクトルともに大きな変化は見られず、ベンゼン環π電子よりも酸素の孤立電子対が求核的相互作用に重要であると考えられる。 一電子酸化する前の中性基質の動的構造について情報を得るため、一重項酸素の付加反応を行った。この場合にはほとんど面選択性は発現せず、中性状態においては側鎖はナフタレン面区別付加に寄与せず、高い構造的自由度をもっていることが示唆される。したがってラジカルカチオンと中性状態とで動的構造が大きく変化していることが判明した。 このように、キラル生成物分析とキラル分光分析とを組み合わせることで、短寿命反応活性種に働く相互作用および、その構造的特徴を明瞭にすることに成功した。
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