我々はケトイミナトコバルト錯体を用いるスチレン類とジアゾ酢酸エステルとの不斉シクロプロパン化反応において反応中間体であるコバルトカルベン錯体が単結合性のカルベン錯体であることを時間分解FT-IRと密度汎関数法による解析から明らかにしている。平成15年度は金属-カルベン炭素結合の性質を決定している要因を調べるため、種々の中心金属・スピン多重度を持つポルフィリン錯体とジアゾ酢酸メチルとの反応を時間分解IRにより追跡すると同時に中間体の金属ポルフィリンカルベン錯体を密度汎関数法を用いて解析した。その結果、反磁性金属ポルフィリンカルベン錯体は2重結合、常磁性金属ポルフィリンカルベン錯体は単結合性のカルベン錯体であり、中心金属ではなくスピン状態が金属-カルベン炭素結合の性質を決定していることがわかった。 触媒的不斉合成に用いちれるSchiff塩基錯体はSalen錯体やケトイミナト錯体などのエチレン架橋を持つ錯体であり、エチレン架橋のないSchiff塩基錯体を触媒とする不斉反応の研究はほとんど行われていない。我々は、既にケトイミナトやSalenコバルト錯体を用いる不斉シクロプロパン化反応が協奏的な機構で進行することを報告しているが、エチレン架橋の有無がシクロプロパン化の反応経路にどのような影響を与えるか調べるため、エチレン架橋のないコバルトSchiff塩基錯体のシクロプロパン化反応を密度汎関数法により解析した。その結果、エチレン架橋のないコバルト錯体は容易に平面構造からCis-β構造へと変化し、コバルタシクロブタン中間体を経由してシクロプロパン化反応が進行することを見い出した。
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