研究概要 |
芳香環を内包した硫黄架橋多核錯体におけるキラル認識能の存在を検証するために,含硫黄アミノ酸類を配位した光学活性八面体型単核錯体を架橋素子として用いることにより,窒素供与型芳香族配位子で二座キレート配位すると共に,上記八面体型錯体の硫黄で二座架橋配位した平面型金属ユニットを有し,多核構造の最小単位である新規光学活性硫黄架橋二核錯体の幾種かを選択的に構築した.その結果,いずれの場合にも,結晶状態で芳香環由来の分子間相互作用は存在せず,単量体構造をとっていることが明らかとなった.なお,得られた光学活性二核錯体の対掌体についても検討したところ,同様の単量体構造となることを確認した.一方,二つの対掌体の等量を最少量の溶媒に溶かし,対掌体の1:1混合物を単結晶化したところ,いずれの場合も芳香環由来の分子間相互作用に基づき,一対の鏡像体を単位とする二量体以上の構造となった.これらの結果は,芳香環を内包した硫黄架橋多核錯体におけるキラル認識能の存在を支持するものと考えられる.また,対掌体の1:1混合物の単結晶については,二核錯体中の八面体型ユニットの構造制御あるいは対イオンの選択によって鎖状構造の構築が可能であり,この場合には特異な分光学的性質を発現することも見出している.現在,より多様な二核構造の構築を行い,系統立てたデータ収集を行っている.その上で,光学活性二核錯体に別の光学活性二核錯体を作用させ,選択的な相互作用が働くのかを調査する予定である.その後,光学活性二核錯体を類似多核錯体のラセミ体に作用させ,光学分割の可能性を追究し,多核錯体用光学分割剤等への応用を図る予定である.さらに,生体関連化合物との相互作用について追究し,この選択的相互作用の分子認識への転換を試みる予定である.これにより,上記の不斉部位依存の分子間相互作用を解明し,新素材や機能性材料としての応用を図る予定である.
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