金属錯体を含む複合分子材料および関連材料の構成分子に注目し、その電子状態的特徴と特異な性質を解明することを目的とした理論研究を行なった。特に本研究では、密度汎関数法を用いて分子構造を理論的に予測し、電子励起状態および振動状態の計算を通じて、分子の電子スペクトルと振動スペクルの解析を行った。検討した具体的な研究研究課題は以下の通りである。 (1)フェロセン-キノン複合錯体のプロトン応答 複合錯体へのプロトン付加により生ずる電子スペクトルの変化と分子構造の変化をシミュレートし、プロトン付加による電子状態の応答を詳細に解析した。また、分子ユニットの置換、あるいは結合部位の変化によって、光学的性質にどのような変化が現れるかを明らかにする研究を行なった。 (2)フェロセン-アゾベンゼン複合錯体の光異性化挙動 金属錯体との複合化によって、特徴的な光異性化挙動を示すフェロセン-アゾベンゼン錯体における異性化の反応座標を数値的に求め、どのような機構で光異性化が進行するのかを理論的に明らかにした。 (3)ポルフィリン-金属イミン錯体の光誘起電子移動 選択的な光励起により誘起される電子移動現象のメカニズムを解明するために、複合錯体の励起状態を計算し、励起状態の性質、エネルギー準位、状態間の電子的相互作用の解析を行なった。 (4)環状四核錯体(molecular square)の電子状態 分子内に空孔を有する環状多核錯体の励起状態を計算し、その構成分子(金属錯体)の電子状態との相関を比較検討することによって、多核錯体の電子状態的特徴を解明する理論研究を行なった。 (5)金属ポルフィリンオリゴマーの励起スペクトル解析 最近実験的に合成された金属ポルフィリンオリゴマーの特徴的な吸収バンドの起源を解析するために、2量体から4量体までの励起状態計算を行ない、それが励起子カップリングに由来するバンドであることを解明した。
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