研究概要 |
d^B電子配置を持つ平面型金属錯体はd_<z^2>軌道の重なりによって一次元鎖構造をとることが知られている.一次元鎖構造をとることによってd_<z^2>軌道から形成される一次元dバンドは電子で完全に満たされており,絶縁体である.このような一次元電子系に電気伝導性などの動的な物性を発現させるためには,金属を部分酸化し,電子揺らぎを導入することが必要である.一方,金属のd軌道と配位子のπ^*軌道のエネルギーレベルを近づければ,金属と配位子の間の酸化還元反応によって金属を部分酸化することが可能であると考えられるが,一次元dバンドを部分酸化した報告例はまったく知られていない. 本研究では,比較的電子過剰なロジウム(I)のジカルボニル錯体と電子欠如なセミキノネート配位子を組み合わせ,金属と配位子の間の酸化還元反応によって部分酸化された一次元dバンドの創製を行った.セミキノネート配位子のπ^*軌道をロジウム(I)のd軌道に近づけるために電子吸引性基であるクロロ基を導入した3,6-ジ-tertブチル-4,5-ジクロロ-1,2-ベンゾセミキノネート(3,6-DBSQ-4,5-Cl_2)を配位子に用いて[Rh(3,6-DBSQ-4,5-Cl_2)(CO)_2]を合成した.X線結晶構造解析から,この錯体は[Rh(3,6-DBSQ-4,5-Cl_2)(CO)_2]がスタッガード配座で積層した一次元鎖状錯体であり,錯体分子は一次元鎖内で六量体を形成していることを明らかにした.Rh-Rh距離はこれまで報告されているRh(+1.5)錯体よりも短く,ロジウムの形式的酸化数は+1.5以上であることが示唆される.この錯体は金属-配位子間電子移動を利用して一次元金属錯体の部分酸化に世界で初めて成功した例であり,本研究目的の達成に成功した.この錯体は室温で比較的高い電気伝導度(17-32Scm^<-1>)を示したが,活性化エネルギーが119meVの半導体であった.
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