まず、単結晶作製の条件決定の前段階として、現在得られている試料に比べ、より超伝導特性の良い多結晶試料を得ることを第一目標として研究を行った。試料の質に影響を及ぼすと考えられる次のことについて検討を行った。まず、溶融塩の均一な組成と温度を保つため、超音波ホモジェナイザーを購入し、溶融塩を攪拌反応出来るよう既存の電気炉の改造を試みたが、振動が起こり安定した合成ができないため、電極を回転させて溶融塩を均一化させた。また、ポテンショメトリ等の電気化学測定を行い、最適な電解電圧を決定する試みを行った。さらに、出発物質を様々な化合物(例えばハロゲン化マグネシウム一般)に変え合成した。 以上の研究から、融液の攪拌によって試料の均一性が上がること、また、電解電圧は4V程度が良いことが分かった。さらに、出発物質を変える実験を行う中で、今まで用いていた混合溶融塩(MgCl_2-NaCl-KCl-MgB_2O_4)に対し、亜鉛や銅の化合物を微少量添加することにより、MgB_2薄膜の超伝導特性が上昇することを見出した。即ち、超伝導転移温度幅が狭くなり、臨界磁場が上昇した。この研究から派生した重要な発見として、この溶融塩を用いる事により、ステンレス上にMgB_2がめっきされることが分かった。このような曲げやすい基板の上にめっきが可能となったことは、本手法が超伝導コイルの作製など、現実的な応用へ適用できることを意味する(特許出願中)。 良質な多結晶試料が得られたことは、今後、単結晶成長を行うための基礎的知見として有用である。また、電気化学反応では、直流電流ではなく、パルス電流を与えると良質な試料が得られる場合がある。このことから、パルス発生装置を購入し、現在、様々なパルス波形の電解電圧を与えて反応を行っている。最適な多結晶試料が得られれば、種結晶をもとに単結晶育成を試みる。
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