本年度は、海産毒ガンビエロールの高効率全合成について検討した。この化合物は強い神経毒性を有しており、珊瑚礁海域で発生する大規模なシガテラ中毒の原因の一つと考えられている。本研究では、ルイス酸による分子内アリル化反応とルテニウム触媒による閉環メタセシスを用いることでガンビエロールの収束的合成を行った。鍵段階の一つである分子内アリル化では、従来脱離基として用いていたアセチル基に代え、より反応性の高いクロロアセチル基を用いた。その結果、収率および立体選択性が格段に向上し、ガンビエロールの高効率全合成を達成することができた。本合成に要した総工程数は102段階、総収率は1.2%であった。合成品の分光学的性質およびマウスに対する毒性は、天然のものと完全に一致した。また、側鎖の二重結合を飽和させるなど、構造が少しずつ異なる誘導体を各種合成し、マウスに対する毒性を調べたところ、これら誘導体は全く毒性を示さないことが分かった。このことから、ポリ環状エーテルの活性発現にはトランスに縮環した梯子状骨格だけでなく、側差の構造も重要な役割を果たしていることが分かった。 また、同様の方法論を用い、ブレベトキシンBのF-K環部およびイェッソトキシンのA-F環部の収束的合成に成功した。これらの天然物は、それぞれ赤潮および下痢性貝毒の原因毒として、沿岸漁業や二枚貝養殖に多くな被害を与えており、深刻な社会問題となっている。今後さらに研究を進め、これらの化合物の全合成を目指すとともに、活性発現機構の解明についても研究をおこなう。
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