研究概要 |
省資源・省エネルギーにつながる有用かつ高効率な有機化学原料の変換反応の開発が近年の重要課題であり、特に水をはじめとする極性小分子の有機合成への有効利用が強く望まれている。本研究では、極性小分子の活性化に有効なオレフィン性π酸性配位子を有する新規0価ルテニウム錯体群の合成を行った。また0価ルテニウム錯体を用いたフェノールの活性化により新規2価フェノラート錯体が得られ、活性化段階に関する新たな知見を得た。 1.極性小分子の活性化に有効な新規0価ルテニウム錯体の合成 Ru(η^6-cot)(dmfm)_2[cot=1,3,5-シクロオクタトリエン、dmfm=フマル酸ジメチル]を出発錯体として、ターピリジンやpyboxなどの三座窒素配位子、種々の置換基を有する芳香族化合物、あるいはp-キノン類との反応により、cotまたはdmfmのいずれかの配位子との交換を経て、対応する新規0価ルテニウム錯体、Ru(N-N-N)(dmfm)_2[N-N-N=三座窒素配位子]、Ru(η^6-arene)(dmfm)_2、Ru(η^6-cot)(η^4-p-quinone)がそれぞれ良好な収率で得られることを見出した。 2.0価ルテニウム錯体によるフェノールの活性化 Ru(η^6-cot)(dmfm)_2とフェノールとの反応を無溶媒条件下100℃で行うことにより新規2価(η^6-フェノラート)(η^5-シクロオクタジエニル)ルテニウム錯体Ru(η^6-C_6H_5O)(η^5-C_8H_<11>)が、反応温度を130℃に上げた場合にはさらに脱水素された(η^6-フェノラート>(η^5-ペンタレニル)錯体Ru(η^6-C_6H_5O)(η^5-C_8H_9)がそれぞれ高収率で得られ、X線解析により構造決定を行った。また、前者の錯体をフェノール溶媒中、水素受容体としてフマル酸ジメチルを添加し130℃で処理することにより脱水素渡環反応が起こり、後者の錯体が高収率で得られた。これらの錯体はフェノールのO-H結合の活性化を経て生成するものと考えられ、今後有機合成反応へ展開するに当たり重要な知見となるものである。
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