研究概要 |
最近,イチイ科植物から抽出されたタキソールが,卵巣癌などに著効を示す医薬品として注目を集めている。このイチイに寄生する微生物の代謝産物の中から,高度に酸化されたカリオフィレン型セスキテルペノイドであるペスタロチオプシン類が,新規化合物として1996年に単離・構造決定された。その基本構造は,今までに例のない三環性骨格を有しており、また生物学的性質については,免疫抑制活性を有することが判明され,とても興味深い有機化合物である。本研究は,ペスタロチオプシン類を化学的に全合成することを目的とした。ペスタロチオプシン類が有する炭素四員環骨格は,重要な生物活性を示す有機化合物中にしばしば見い出される部分構造であり,その光学活性体としての合成法の確立は,今日の有機合成化学において重要な課題のひとつである。今回,本申請者は独自のコンセプトによって,光学活性なシクロブタノール誘導体の合成法の開発に成功した。光学活性源として,安価で容易に入手可能なカンファースルホン酸を用いた。これをOppolzerのキラル補助基に変換した後,プロピオル酸と縮合させた。ルイス酸(四塩化ジルコニウム)を触媒に用いて,ケテンビストリメチルシリルアセタールとの[2+2]環化付加反応を行い,シクロブテン体を得た。このα,β-不飽和カルボニル部に対するL-セレクトリドを用いた1,4-還元,続く高立体選択的なプロトン付加により,ほぼ単一のジアステレオマーとしてシクロブタン体に変換した。キラル補助基を除去したところ,高い光学純度にて(96%ee)シクロブタノール体を得た。現在では,この光学活性な化合物を出発物質に用いて合成研究を展開させ,ペスタロチオプシン類が有する特異な三環性骨格の構築を検討している。
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