平成16年度は、昨年度後期に放射光(SPring-8、BL40B2)を用いて収集したキトサン/HI錯体の繊維回折データを基に構造精密化を進め最終的な結晶構造モデルを決定することに成功した。実験室のデータのみによる解析ではモデルを一つに絞り込むまでには至らなかったが、放射光を利用することにより回折強度の弱い反射に関しても精度の高いデータを得ることができたため、キトサン/HI錯体の結晶構造を一義的に決定することが可能になったと考えられる。この解析結果より、キトサン錯体中における分子間相互作用に関して以下のようなことが明らかとなった。キトサン/HI錯体結晶中には結晶学的に2種類のヨウ素イオンが存在し、それらヨウ素イオンは互いに約5Åの間隔でキトサン分子の分子鎖軸方向と平行に配列し、ヨウ素イオンによるカラムを形成していた。一方のヨウ素イオンはその周囲にある3本のキトサン分子鎖のアミノ基と水素結合をしており、他方のヨウ素イオンは1つのアミノ基と2つのキトサン分子の6位水酸基との間に水素結合を形成し結晶構造を安定化していた。 また、本年度もSPring-8のBL40B2ビームラインで(前期、後期各24時間のビームタイム配分)キトサン/HBr錯体、HCl錯体の繊維回折データの収集を行った。現在これら錯体の結晶解析を進めているが、HBr錯体についてはHI錯体と非常に類似したモデルで実測の強度分布をほぼ説明できることが明らかとなった。 さらに、放射光により収集した高分解能データを基にキトサン水和型の結晶構造モデルについて再検討を行ったところ、従来のモデルとは異なったモデルの方が実測のX線データをより満足する可能性があることが示唆された。水和型の構造モデルについても現在さらに解析を進めている。 以上のように、本研究によりこれまでほとんど明らかとなっていなかったキトサン錯体の構造の詳細、特にキトサンと酸との間の分子間相互作用について初めて明らかにすることができた。
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