本年度は、ペリレン系材料(n型半導体)およびフタロシアニン系材料(p型半導体)を用いた有機二重層系で湿式系光電極素子の開発研究を行った。以下に、研究実績の概要を示す: (1)真空蒸着法により、透明ガラス電極基板上に、ペリレン誘導体、無金属フタロシアンニンを順に積層したものを光電極素子とした。可視光照射下で、固(無金属フタロシアンニン)/液(水)界面に酸化力が発生するため、結果として、光触媒的酸化(還元剤:チオール)が誘起され、非常に高い光アノード電流が生じた。本光電極系は、750nm以下の広範な可視光エネルギーを効率的に吸収でき、さらに、二重層の内部構造(p-n接合界面の形成)を反映した光物理過程を介して効率的なキャリアー移動を実現する等の特長を有する。従来の光触媒は無機半導体が大半であり、かつ、通常、500nm以下の可視光にしか応答しない例がほとんどであるが、本研究により、可視全域に応答する光触媒系を有機分子により創出できたことから、光電気化学や光触媒の研究分野における今後の展開に大きな波及効果をもたらす結果に至った。 (2)ペリレン誘導体/無金属フタロシアンニン系光電極のフタロシアンニン表面に貴金属酸化物(触媒)を結合すると、水酸化物イオンの酸化により酸素発生が起こることを見いだした。本電極反応を動的に解析したところ、酸素発生過程が律速段階を構成していることがわかり、効率的な酸素発生のためには、光電極への活性な触媒の結合が必要であるが明らかとなった。
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