本研究では、ランダム媒体中の光散乱長が分子間エネルギー移動に及ぼす影響について検討を行った。hydroxypropyl cellulose (HPC)水溶液中における光散乱長は、下部臨界溶液温度(LCST)において、HPCの相転移に伴って変化する。LCSTより高温では、HPC系は非析出性のナノ粒子鎖状凝集体を形成する。ナノ粒子のサイズは温度によって変化し、また溶液の組成にも依存する。一方、ドナー分子Rhodamine 6Gの蛍光発光スペクトルはアクセプター分子Kiton Redの吸収スペクトルと重なりを持つ。そこで、これらをHPC媒体中に添加して、レーザー励起による蛍光測定を行った。 レーザーパルスポンプ光とほぼ同軸で逆向きの後方散乱光を測定することにより、溶液中のエネルギー移動過程を観測した。LCSTより高温において、HPC溶液中にRhodamine 6Gのみを添加した場合、水溶液に比較して後方散乱光は2.5倍に増大した。一方、Kiton Red/HPC溶液では最大2倍の増大が観測された。さらに、ドナー溶液、アクセプター溶液のいずれにおいても発光ピーク波長は長波長側へシフトした。これらの結果から、LCSTより高温ではHPC溶液中で光子の局在化が起こり、それが増幅自発発光(ASE)による発光増大へ寄与したものと考えられる。 Rhodamine 6G/Kiton Red/HPC混合溶液の場合には、それぞれドナーとアクセプターに対応して、550nm並びに590nmに発光ピークが観測された。水溶液の場合と比較すると、590nmの発光は5倍に増大していた。この増倍率は、HPC中で観測されたドナー、アクセプター単独のASE効果の積(2.5x 2)に一致している。
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