本年度は、5℃HI水溶液中でのヨウ素クラスター形成の様子を<1-1-2>方向と<112->方向に微傾斜したH-Si(111)面を用いて調べた。その結果、<112->方向へ微傾斜した表面ではほとんどクラスター形成が見られなかった。<112->傾斜面のstep端がほとんどSi-H構造で覆われているのに対し、<1-1-2>傾斜面のstep端がSi-H2構造を多く含んでいることから、これらのロッド状クラスター形成がSi-H2step端のHI水溶液によるエッチングによるものであることが明らかになった。実際に、<1-1-2>傾斜面のstep形状のHI水溶液中での経時変化をAFMを使って調べてみると、<1-1-2>step端が減少し、そのかわりに<112->step端が増えてきていることが確認された。また、HI水溶液の温度を変化させてクラスター形状の変化を確認したところ、室温まではほぼ配向したrod状クラスターが確認されたが、63℃ではdot状に、また81℃では厚さ1nm程度の大きな斑点状クラスターが確認された。これらの詳しい解析の結果、rod状クラスターはクラスター形成過程で運動論的支配(拡散支配)が原因で形成されたものであることが分かった。 また、クラスター形成と同時に起きると思われるヨウ素終端化反応についても5℃のHI水溶液中で浸漬時間を追ってFTIR測定を行った結果、非常に興味深いことが分かった。最初の1〜2時間でterraceサイトのみがヨウ素終端化されることは以前から分かっていたが、2時間程度でterraceサイトのヨウ素吸着は飽和する。そしてそれまで全く変化の無かったstepの2種のSi-Hが変化する。すなわちstepのSi-Hピークが増加し代わりにSi-H2ピークが減少することが分かった。これは、まさにエッチングによる変化であり、これによってクラスターがの形成が促進されることが分かった。溶存酸素を抜いたHI水溶液で同様の実験をすると、浸漬直後からヨウ素終端化反応はほとんど起こらず、かわりにクラスター形成反応が促進されることが分かった。
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