量子コンピュータは、ごく近年にセンセーションを巻き起こしている。一方、分子磁性体は、我国にて世界に先駆けて発見された化学の重要な領域の一つである。そして、これらの融合として、量子コンピュータを分子磁性体にて実現することが考えられる。本研究では、「量子コンピュータの量子ビット素子としての分子磁性体の設計」を目指す。その実現のためには詳細な理論的議論からのアプローチも必要である。 平成16年度は、前年度に引き続き、分子軌道法を中心とした理論計算を駆使して、量子ビット素子に求められる条件を解析した。この量子ビット素子として要件を、磁気スピンを採用することで試み、量子コンピュータでの演算操作をそのスピン間の磁気的相互作用と読み替えることとした。直接量子ビット素子の探索を行うのは非常に困難である。そこで、着実にアプローチするために、分子磁性体の分野での有機強磁性結晶及び分子性(超)伝導性結晶に関して、磁性スピン・遍歴電子の振る舞いを理論的に解析することから展開した。ここでは、磁気スピンが安定に存在する条件と、そのスピン源間の磁気的相互作用の発現メカニズムの解明を、磁性・伝導性に関する考察と一体となって押し進めた。
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