本研究は、マイクロチップを相平衡セルとして用いて、水溶解度およびオクタノール/水分配係数を測定する方法を確立するものである。従来の測定原理をマイクロチップへダウンサイジングさせることにより、試薬・廃液の極微量化、平衡時間の超短縮化が実現できる。本年度は、まず、ターゲット物質として、蛍光検出器で極微量分析可能な多環芳香族を選択し、従来法で水溶解度およびオクタノール/水分配係数の測定を行い、マイクロ空間でないバルク状態での平衡値を求めた。次に、ガラス製のマイクロチップをベースに、水溶解度および分配係数に対してそれぞれ測定用チップを提案し、測定を行った。 水溶解度の測定では、マイクロチャンネル内に堰を有したチップと堰構造のない単純なマイクロチャンネルを有したチップの2種類のチップを用い、測定物質を堰またはマイクロチャンネル壁に固定化したチップを作成した。そこに純水を通液して溶解度を測定した。測定物質を固定化する方法およびその量、通液する純水の流量、マイクロチャンネル内の構造を溶解度測定における操作パラメータとして、最適な測定条件を考察した。 オクタノール/水分配係数の測定では、Y字のマイクロチャンネルを有したチップを用いた。水とオクタノール(測定物質を含む)を別々の注入口から送液し、オクタノール/水2相流を形成させて分配係数の測定を試みた。まず、測定物質を含まない2相流の安定性およびその液液平衡関係を把握した。その後、測定対象物質をオクタノール相に溶解させ、通液する溶媒の流量、マイクロチャンネルの構造、オクタノール相の初期濃度を操作パラメータとして分配係数を測定し、相間の輸送状態を調べるとともに、測定に適した条件を考察した。
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