本研究では生理活性を有したRNA分子の機能発現のメカニズムを、化学的観点から解析した。研究対象として、ハンマーヘッド型リボザイム(Hammerhead ribozymes:塩基配列特異的な切断反応を触媒するRNA酵素分子)の金属イオン結合モチーフの解析を行った。このモチーフはハンマーヘッド型リボザイムの結晶構造解析の過程で発見された。多くの結晶構造を通じて、モチーフに対する金属イオンの結合がみられていること、および、速度論解析の結果よりモチーフへの金属イオンの結合に伴い活性が上昇すること、以上2つの理由より、モチーフに結合した金属イオンが触媒金属である可能性が示唆されていた。従って、この部位の金属イオンの役割を明らかとすること目的として、核酸塩基と金属イオンの相互作用について解析を行った。 まず、金属イオン結合モチーフを有したモデルRNA二重らせん分子を作成し、性質の異なる複数の金属塩を用いて滴定実験を行った。結合状態は多核多次元NMR測定(^1H-^<13>C HSQC、一次元^<31>P NMRスペクトル)によりモニターした。その結果、金属イオン結合部位に隣接する炭素核の^<13>C NMRの化学シフト値変位を調べることにより、金属イオンの化学結合(配位結合か否か)を区別できることを示した。変異型リボザイム(活性あり)に含まれる、変異型金属結合モチーフに対する金属イオン結合の可否を調べたところ、金属イオンは結合できないことが解った。このことから、モチーフに結合した金属イオンが触媒機能を有していない、即ち、金属イオンの生理的役割がリボザイムの構造形成であることを明らかとした。以上の結果をJ.Am.Chem.Soc.誌およびNucleic Acids Res.誌のSupplementに発表した。また本研究に関連して、核酸塩基-金属イオン相互作用研究について総説(薬学雑誌)を寄稿する機会を得た。
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